オフィスの移転をする際は、基本的に民法で定められた貸借人(借主)の義務である「原状回復工事」が必要です。
原状回復義務の範囲は、一般的な賃貸住宅と賃貸オフィスでは異なります。
それは、オフィスの原状回復義務においては、契約内容に応じて工事範囲や費用の負担者などが変わるからです。
貸主と借主の間でトラブルが起き、裁判に発展することもあるため、オフィスの原状回復義務のルールは押さえておきましょう。
この記事では、オフィスの原状回復義務の範囲について解説します。
また、原状回復工事にかかる費用や流れのほか、注意点についても紹介しますので、オフィスを移転する際の参考にしてください。
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原状回復とは退去時に入居前の状態に戻すこと
原状回復とは、借主が借りていた物件を退去する際に、入居前の状態に戻すことを指します。
国土交通省より発行されている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、原状回復の定義は下記のとおりです。
■ 国が定める原状回復の定義
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」 国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』(2011年8月)
ガイドラインでは「貸借人の故意や過失などによる損耗等」についてのみ、原状回復の対象になるとしています。
また、民法621条では、原状回復義務について下記のように定めています。
■ 民法621条:賃借人の原状回復義務
「賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ)がある場合において、賃貸借契約が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」 参考:e-GOV法令検索「賃借人の原状回復義務」
この中で、原状回復義務がないとされている「通常損耗」「経年変化」「賃借人に帰責性がない損傷」とは、それぞれ下記のとおりです。
■ 原状回復義務がない損傷
通常損耗 | 一般的な利用によって生じる損耗など 例:家具を長く置いたことによる床のへこみなど |
---|---|
経年変化 | 建物・設備などに自然に起こる劣化や損耗など 例:日焼け、色あせなど |
賃借人に帰責性がない損傷 | 借主の故意や過失、一般的な範囲を超えた使用方法による損傷以外の損傷など 例:落雷や地震など自然災害による損傷 |
参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(2011年8月)
ただし、民法621条は、当事者の意思で内容を変えられる「任意規定」であり、契約書の記載内容によって変更が可能と解釈されています。
そのため、「特約」が記載されることもあるので注意が必要です。
また、原状回復に際して賃貸借契約書に工事業者を指定した記載がある場合、それに従います。
指定業者の記載がなく原状回復の記載のみであれば、貸主や管理会社と交渉し、工事業者を選ぶことが可能です。
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賃貸オフィスは原状回復義務の範囲が大きくなる
賃貸オフィスの原状回復範囲も、賃貸借契約の内容に応じて決定されます。
ただし、原状回復範囲は、一般の賃貸住宅では対象とならない経年劣化なども含まれる傾向が強いので、注意が必要です。
賃貸オフィスでは賃貸借契約書に、経年劣化や通常損耗の原状回復工事に関する「特約」が定められていることもあります。
原状回復についての特約を定める場合、例えば下記のように記載されます。
《 特約の例 》
- 貸借人は、本物件を退去する際に、通常使用、経年変化、貸借人に帰責性のない損傷によるものを含むすべての損傷について原状回復する義務を負う。
- 貸借人は、本物件を退去する際の原状回復工事を株式会社◯◯に委託する。
- 貸借人は、原状回復工事にかかる費用を自ら負担する。
このような特約が賃貸借契約書に記載されている場合、過去の最高裁判例から判断しても、基本的には特約に従うことになるので注意してください。
オフィスの原状回復工事費用の目安
オフィスの原状回復工事にかかる費用は、工事内容に応じて異なります。
一般的にオフィスの規模が小さいほど工事範囲も限定的になる場合が多く、坪あたりの工事費用も低くなる傾向があります。
1坪あたりの目安としては、小・中規模オフィスで2万~5万円程度、大規模オフィスで5万~10万円程度です。
具体的には、下記のような費用感となります。
ただし、オフィスの広さや築年数のほか、間仕切りの量や工事の地域によって、工事費用は変動するので注意してください。
■ 小規模・大規模オフィスの原状回復工事費用の目安
オフィスの種類 | 費用の目安 |
---|---|
小規模オフィス(30坪) | 60万〜150万円程度 |
大規模オフィス(100坪) | 500万〜1,000万円程度 |
貸主や管理会社の指定業者がいる場合は、その業者の見積もりをもとに発注します。
見積もりに明らかな不明点や疑問点がなければ、その内容で工事をすることになるでしょう。
一方、指定業者がいないときは業者を選んで見積もりを依頼し、見積もりの内容が妥当かどうかをチェックします。
見積もりを取るにあたって確認すべきポイントは、下記のとおりです。
《 原状回復工事の見積もりを取る前に確認すべきポイント 》
- 貸主・管理会社指定の工事業者の有無
- 賃貸借契約書の特約内容の確認
- 原状回復工事の具体的な項目および内容について、過不足がないか貸主に確認をとる
また、見積もりの内容については、下記のポイントをチェックしてください。
《 原状回復工事の見積もり内容で確認すべきポイント 》
- 見積もりの床面積と図面上の面積が同じになっていないか
- 廊下などの共用部分が見積もりに含まれてしまっていないか
- 工事内容が「一式」ではなく、具体的に記載されているか
図面上の床面積は、壁の中心を基準に測る「壁芯面積」であり、実寸よりも広く記載されるため、原状回復の対象となる床面積とは一致せず、減額交渉できる場合があります。
また、工事内容については「一式」だと、原状回復に不要な工事も含まれてしまう可能性もあるので注意してください。
工事作業名や工事の単位、単価、数量などを「クロス工事 ◯メートル 単価××円 計◯◯円」などと記載してもらいましょう。
オフィスの原状回復の流れ
オフィスの原状回復は、借主の負担で退去日までに完了させる必要があります。
続いては、オフィスの原状回復の流れについてご紹介します。
① 賃貸借契約書で原状回復義務の範囲などを確認する
まずは、賃貸借契約書を参照して、原状回復義務の範囲などについて確認します。
《 賃貸借契約書の原状回復義務に関する確認事項 》
- 工事区分
- 工事期間
- 解約時の手続き方法
- 解約予告期間
「工事区分」については、必ずチェックしましょう。
工事区分には、主に専有部分のクロスやコンセントといった「C工事」と、専有部分ではあるものの、空調設備のように建物全体に影響を及ぼす「B工事」があります。
このうち、原状回復工事において、どの部分が貸主負担または借主負担になるのか、万が一、賃貸借契約書に明記されていないとトラブルになることがあるので注意が必要です。
なお、解約予告期間は、貸主や管理会社へ退去の意思を通知する期間であり、賃貸オフィスの場合は3~6ヵ月となっています。
② 指定業者以外の業者に依頼できるか確認する
一般的に原状回復工事は、貸主や管理会社の指定業者に依頼するものの、賃貸借契約書において記載がない場合は、貸主の指定以外の工事業者に依頼ができるか確認しましょう。
賃貸借契約書に記載がないのであれば、交渉できる可能性はあります。
ただし、賃貸借契約書の記載がない場合でも、貸主・管理会社側が工事業者を指定することがあるので注意が必要です。
③ 工事業者に見積もりを依頼する
原状回復工事の内容が確定したら、工事業者に見積もりを依頼しましょう。
貸主や管理会社の指定業者がないのであれば、複数の業者で見積もりを取って、工事内容や金額を比較するのがおすすめです。
なお、見積もりを依頼する際は、金額や工事内容だけでなく、工事期間についても確認してください。
工事にどのくらいかかるのかによって、退去日がずれ込む可能性があるのがその理由です。
④ 原状回復工事の発注と進捗管理を行う
見積もりを検討した上で、工事業者に原状回復工事を発注します。
原状回復工事には2週間から1ヵ月程度かかるのが一般的です。
工事内容やオフィスの広さによってはさらにかかる場合もあるため、余裕を持って発注をしてください。
原状回復工事がスタートしたら、工程表を確認しながら、予定どおり工事が進んでいるかをチェックしましょう。
工事内容についても、契約内容どおりに行われているか確認します。
⑤ 原状回復工事の完了確認と引き渡し
原状回復工事が完了したら、貸主や管理会社の立ち会いのもとで確認を行います。
問題なく完了しているようであれば、物件の明け渡しを行いましょう。
万が一、問題が生じていた場合は、責任の所在を明らかにした上で追加工事を行います。
- 関連記事
- オフィス移転手順・スケジュールの立て方については、「初めてのオフィス移転!失敗しないために実践したい6ヶ月間計画を徹底解説」にて詳しく解説しています。ぜひ、合わせてご確認ください。
オフィスの原状回復工事を行う際に注意すべきこと
オフィスの原状回復工事は、できる限りコストを抑え、トラブルにならないように行いたいところです。
最後に、原状回復工事をスムーズに進めるため気をつけたいことについてご紹介します。
オフィスの原状回復義務の範囲について賃貸借契約書を確認する
オフィスの原状回復義務の範囲は、基本的に賃貸借契約書に明記されています。
賃貸借契約書の記載内容をもとに、工事範囲を明確にしましょう。
なお、賃貸借契約書に記載されたとおりに原状回復の工事をしても、記載内容の認識に齟齬があるとトラブルにつながるおそれがあります。
不明点があれば、貸主や管理会社への事前の確認を怠らないようにしてください。
指定業者以外に依頼する場合は、複数の業者に見積もりを取る
貸主や管理会社の指定業者以外に原状回復工事を依頼できる場合は、複数業者に見積もりを依頼しておきたいところです。
これは、1社のみに見積もりを依頼すると、工事内容に不足があったり、見積もりが相場よりも高かったりした場合に気づくことができないからです。
2、3社に見積もりを依頼することで、工事内容や工事金額が適切なのかを判断しやすくなります。
繁忙期のオフィス移転はできる限り避ける
オフィス移転が多い1~4月の繁忙期は、原状回復工事の金額が高めに設定される傾向があるため、可能であれば避けたほうがいいでしょう。
一方、工事業者の閑散期は、6~8月です。
特段の理由がなければ、この時期のオフィス移転がおすすめです。
助成金や補助金をできる限り活用する
オフィスの移転に伴う支出がある場合、助成金・補助金を活用できる可能性があります。
該当する制度があれば、できる限り活用しましょう。
主な助成金・補助金とその概要は、下記のとおりです。
《 オフィス移転に使える可能性がある助成金・補助金 》
- 事業承継・引継ぎ補助金:事業承継などを機に、新たな取り組みを行う中小企業または個人事業主向け
- キャリアアップ助成金:非正規雇用者の正社員化や処遇改善に取り組む中小企業向け
- ものづくり補助金:設備投資を行う中小企業・小規模事業者向け
- IT導入補助金:ITツールを導入する中小企業・小規模事業者向け
- 事業再構築補助金:新市場進出などの事業再構築を行う中小企業向け
- 小規模事業者持続化補助金:経営計画を定めて生産性向上のための取り組みを行う小規模事業者向け
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原状回復工事専門の工事業者に任せるようにする
指定業者が定められていない場合は、オフィスの原状回復を専門とする工事業者に任せることで、退去や移転のほか、各種清掃作業などの窓口を一本化できます。
原状回復工事を行う際に知っておかなければならない法律にも精通しているため、トラブル防止にも役立つでしょう。
まとめ|トラブルにならないためにルールを知っておこう
事務所や店舗など、事業目的の賃貸物件では、ほとんどの場合、借主に原状回復義務が課せられます。
トラブルを回避するため、事前に指定の工事業者の有無や原状回復義務の範囲について確認しておきましょう。
同様に、見積もりの項目や金額、スケジュールについてもしっかりチェックすることが大切です。
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