新しくオフィスを開設する時、または、移転をする時、みなさんはどれくらいの広さのオフィスを借りようと思うでしょうか。
必要面積の目安を立てるには、基準と条件が必要です。
一人当たりの必要面積はどれくらいなのか、そして何人でオフィスを使う予定なのかが分かれば、おおよその目安が立てられます。
本コラムでは、オフィスレイアウトの基本となる基準寸法を押さえ、ワーク(執務)スペースの主要なデスクレイアウトのパターン例を紹介し、そのメリット・デメリットについて解説します。
おおよその必要面積と貴社の業務やワークスタイルに相応しいオフィスレイアウトを見つけるお手伝いができれば幸いです。
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基準寸法とは?
オフィスをつくる際に守らねばならない法律があります。
代表的な法律は、建築基準法・労働安全衛生法・消防法の3つです。
これらには、私たちの生命の安全と心身の健康を守るための「基準」が記されています。
オフィスレイアウトはこの「基準」をもとにして、デスク間や人がすれ違うための通路幅が決められています。
これが「基準寸法」です。
動線となる通路幅が十分に確保できていないと、火事や地震などの災害時に避難する際、混乱の原因となり大変危険です。
また、スペースに余裕がないオフィスレイアウトはストレスの原因にもなります。
人が通る度に椅子を移動させたり、社員同士がすれ違う際に横歩きとなったりしていては、業務効率や集中を妨げることになります。
快適なオフィス環境の構築は、社員の業務パフォーマンスの向上につながりますので十分な通路幅を確保するようにしましょう。
ここからは、基本となる通路幅、ワーク(執務)スペース内と会議室の通路幅の基準寸法を解説します。
① 通路幅の基準寸法
JOIFA(日本オフィス家具協会)では日本人成人の標準的な寸法(肩幅)は46〜50cmとされています。
また、ユニバーサルデザインのオフィスの場合、車椅子の利用を考慮した設計となりますが、車椅子の標準的な寸法(幅)は60cm(※1)とされています。
※1)車椅子の寸法は、JIS規格では70cm以下とされているので、こちらを参考にすると良いかもしれません。車椅子の利用を考慮する場合には設計者に相談することをおすすめいたします。
これらの標準的な寸法より、以下の寸法を通路幅の目安とします。
《 通路幅の目安 》
- A. ひとりが通行する通路幅
- 60cm〜
- B. ふたりがすれ違う通路幅
- 120cm〜
- C. ひとりが横向きになった時の通路幅
- 45cm〜
- D. 着座時の通路幅
- 50cm〜
(※ 車椅子の幅:60cm + ハンドリムを操作するゆとり:15cm)
大人が一人通れる通路幅は60cm以上、大人が二人すれ違う場合には、120cm以上必要です。
JOIFAでは避難経路の通路幅を120cm以上にすることが推奨されています。
また、オフィスフロアをパーテーションや造作壁などで区切って部屋をつくることがありますが、居室の面積が200m²(地下の場合100m²)を超える場合は、通路幅を120cm以上確保することが、建築基準法施行令第119条に規定されています(※2)。
※2)両側が壁で片側のみ居室になっている場合の通路の幅は120cm以上、両側が壁で両側とも居室となっている場合の通路幅は160cm以上確保することが定められています。
② 執務スペース:デスク間の通路幅の基準寸法
人が頻繁に移動、出入りする執務スペースや会議室は、作業効率と安全性を考慮したレイアウト設計が必要です。
デスクの背後が壁の場合と収納庫の場合とでは必要とする通路幅が異なります。
収納庫の場合、扉を開閉するための動作スペースが必要だからです。
ここでは、執務スペースでのデスク間の通路幅について解説します。
デスクとデスク間の通路幅
- デスク同士を横並びに設置
- デスク同士を背中合わせに設置
デスクとデスクの間の通路は2パターン考えられます。
デスク同士を横並びに設置するパターン(上図・左)とデスク同士を背中合わせに設置するパターンです(上図・右)。
デスク同士を横並びに設置するパターンの場合、デスクの島と島やフリーアドレスデスクの間を通る通路はメインの動線となる場合が多いと思います。
一般的には90cm以上あれば良いとされてはいますが、できればJOIFAで推奨されている通路幅である120cm以上を確保したいところです。
通路にゆとりがあると安心です。
デスク同士を背中合わせに設置するパターンは、180cm以上の通路幅を確保します。
椅子の前後の可動域は75〜90cmと想定します。
狭いと人が通りづらいだけでなく、背面の椅子同士がぶつかってしまいますので、十分な通路幅を確保しましょう。
デスクと壁の通路幅
- 壁面をサイドにデスクを設置
- 壁面を背後にデスクを設置
壁面をサイドにデスクを設置するパターン(上図・左)と壁面を背後にデスクを設置するパターン(上図・右)の2パターンが考えられます。
デスクとデスク間の通路と同じ考え方ですが、壁面をサイドにデスクを設置する場合、大人二人がすれ違える幅である120cm以上を確保します。
壁面を背後にデスクを設置する場合も、120cm程度確保できていれば十分ですが、椅子の可動域や人が頻繁に往来する状況を想定し、140cm以上あると業務の妨げになることがなく快適な環境を築くことができます。
反対に、機密性の高い業務従事者の場合、なるべく座席の後ろを人が通らないよう、意図的に通路幅を90cm程度に狭くすることもあります。
デスクと収納庫の通路幅
- 収納庫をサイドにデスクを設置
- 収納庫を背後にデスクを設置
収納庫をサイドにデスクを設置するパターン(上図・左)と収納庫を背後にデスクを設置するパターン(上図・右)の2パターンが考えられます。
収納庫は引き出しや開き扉のような開閉スペースを必要とするタイプがあります。
この扉サイズ(45〜50cm程度)と、扉を開けたり、しゃがんで作業したりするスペース分を考慮し、通路幅を135cm以上確保します(※3)。
収納庫を背後にデスクを設置する場合、着座スペースも考慮する必要がありますので、できれば180cm以上の通路幅を確保したいところです(※4)。
※3)扉:45cm + 横向き(作業)スペース:45cm + 通行人スペース(横向き):45cm
※4)扉:45cm + 横向き(作業)スペース:45cm + 着座スペース:50cm
デスクとコピー機の通路幅
- コピー機をデスクのサイドに設置
- コピー機をデスクの背後に設置
コピー機をデスクのサイドに設置するパターン(上図・左)とコピー機をデスクの背後に設置するパターン(上図・右)の2パターンが考えられます。
コピー機をデスクのサイドに設置する場合、作業スペースを考慮しても通路幅105〜120cm程度確保できれば十分です(※5)。
一方、コピー機をデスクの背後に設置する場合は、作業スペース、着座時のスペース、そして人の往来を考慮すると140cm以上の通路幅を確保することが望まれます(※6)。
※5)横向き(作業)スペース:45cm + 通行人スペース:60cm
※6)着座スペース:50cm + 横向き(作業)スペース:45cm + 通行人スペース(横向き):45cm
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③ 会議室・スペースの基準寸法
- 対向式
- 同向式(セミナールームタイプ)
会議室のレイアウトは大きく2つのタイプに分類されます。
向かい合わせに座る「対向式」と同じ方向を向いて座る「同向式(セミナールームタイプ)」です。
会議室における主要な通路は以下の3つです。
《 会議室の主要な通路 》
- ① 座席と壁の間の通路
- ② 会議テーブルとホワイトボードの間の通路
- ③ 前列との間の通路(同向式・セミナールームタイプ)
まず、座席と壁の間の通路(①)ですが、会議室は人の往来が頻繁ではありませんので、座席と壁の間の通路は、人が一人通れるスペースが確保できれば十分です。
だいたい100cm程度と考えると良いでしょう。
会議テーブルと前方に設置されたホワイトボートの間の通路幅(②)は、ホワイトボードを使用する人と一人が通れる通路幅を考慮して120cm程度のスペースを確保します。
セミナールームタイプのレイアウトでは、最前列とホワイトボードの間が狭く、板面が近すぎても見づらくなりますので余裕を持ったスペースを空けると良いでしょう。
セミナールームタイプのレイアウトの場合、前列との間にスペースが必要です(③)。
人が通ることを考慮して95cm程度(※7)は確保したいところです。
※7)着座スペース:50cm + 通行人スペース(横向き):45cm
- 関連記事
- 目的に合わせた会議室のレイアウト方法は、関連記事「6つの目的別レイアウトから学ぶ、会議室を有効に使う秘訣とは?」にて詳しく解説しています。ぜひ、合わせてご確認ください。
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一人当たりの必要デスクスペース(ワークスペース)とは?
一人当たりのデスクスペース(ワークスペース)はどれくらい必要でしょうか。
一般に使われているオフィスデスクのサイズは、幅 120cm × 奥行 70cmです。
(1台のデスクを複数人で共有するフリーアドレスデスクも一人当たりのデスク幅は120cmです。)
このサイズに椅子の前後の可動域、75〜90cmを加算します。
面積でいうと、約2m²になります。
一人当たりのデスクスペース(ワークスペース)はこれくらいの面積が必要だと考えてください。
一方、オフィスフロア全体の面積における社員一人当たりの必要面積はこれでは足りません。
省令で以下のように定められています。
社員一人当たり、気積(室内の空気の総量)が10m³以上必要ということです。
一般的なオフィスの天井高は2.5〜2.6mくらいですから、面積にして4m²以上必要だというとこになります(※8)。
「増員により段々とオフィススペースが狭くなってしまった」という問題がしばしば発生しますが、職場における社員の安全と健康、そして快適な職場環境を構築するために必要な面積となりますので、新しく開設するオフィス、または、移転先オフィスの広さを決める際の目安にしてみてください。
※8)10m³ ÷ 2.5m = 4m²
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執務スペースにおけるデスクの主要レイアウトパターン
通路幅の基準寸法、社員一人当たりの必要ワークスペースが分かったところで、執務スペースにおけるデスクの主要レイアウトパターンを紹介します。
日本のオフィスでは長らく「島型レイアウト」が人気のレイアウトパターンでしたが、最近では島型レイアウトにとらわれず、様々なレイアウトパターンが採用されています。
一番大切なことは、採用するレイアウトが自分たちの働き方に相応しいかどうかということです。
ここでは、主要なデスクレイアウトパターンのメリットやデメリットを知ることで、貴社のオフィスづくりの参考にしていただきたいと思います。
① 対向式レイアウト(島型レイアウト)
- 対向式レイアウト(島型レイアウト)
Q. どんな働き方に合っている?
デスクが互いに向き合っているレイアウトです。
部署やチーム単位で協働することが必要な仕事をしている組織に適しています。
また、固定席であるため、人事、総務、経理のような、所在が明確であることが求められる組織や部署で資料・書類を管理している組織に適したレイアウトといえます。
- 《 メリット 》
-
- コミュニケーションが取りやすい
- どの部署がどこにいるのか、誰がどこにいるのかを把握しやすい
- 省スペースで面積効率が良い
- 《 デメリット 》
-
- 他部署とコミュニケーションが取りづらく垣根をつくりやすい
- 上司や周りからの視線をストレスと感じることがある
② 同向式レイアウト(並列式レイアウト)
- 対向式レイアウト(島型レイアウト)
Q. どんな働き方に合っている?
デスクが一方向を向いたレイアウトです。
主に学校や塾で採用されているレイアウトで「スクール式」レイアウトともいいます。
企業ではシステムエンジニアやプログラマーのような集中力を要する業務に適しています。
また、銀行・保険の店舗窓口やコールセンターようなお客様との会話に集中したい業務にも適したレイアウトだといえます。
- 《 メリット 》
-
- 個々の仕事に集中できる
- 前の人と視線が合わないためにストレスを感じにくい
- 機密情報やプライバシーが守れる
- 《 デメリット 》
-
- 通路スペースを複数必要とするためにスペース効率が良くない
- コミュニケーションが限定的になる
③ 背面式レイアウト
- 背面式レイアウト
Q. どんな働き方に合っている?
デスクを背中合わせに配置したレイアウトです。
集中とコミュニケーションを両立させたい業務に適しています。
座席の背後にテーブルを設置することでカジュアルなコミュニケーションを取ることもできます。
WEBコンテンツのようにディレクター、デザイナー、エンジニアとチームでプロジェクトを進める必要がある業務に適したレイアウトといえます。
- 《 メリット 》
-
- 協働と集中のメリハリがつく
- 同一プロジェクトをチームで進めやすい
- 《 デメリット 》
-
- コミュニケーションが固定される傾向がある
- ビジネスチャットツールが浸透したことで必要ない可能性も(?)
④ クラスター式レイアウト
- クラスター式レイアウト
Q. どんな働き方に合っている?
デスクと収納を直角に組み合わせて左右対称に配置するレイアウトです。
集中を必要とする業務に向いています。
中央部分に収納棚を設置することで個空間を設けつつ、収納スペースとして活用することができます。
設計部門のように、資料・カタログ・サンプルなど保管する必要がある業種に適したレイアウトです。
また、人同士の対面を避けつつ、人との距離を取ることができるレイアウトのため、新型コロナウイルス対策としてのレイアウトとしても適しています。
その場合、軽量なワークテーブルで構成すると移動が簡単で、状況に応じたレイアウトをフレキシブルに変更できます。
- 《 メリット 》
-
- 収納スペースが増やせる
- 前後左右の人とコミュニケーションが取りやすい
- 「密集」を防ぐオフィスレイアウトが構築できる
- 《 デメリット 》
-
- 電源・LANケーブルなどの配線をまとめにくい
- 背後からの視線がストレスとなることがある
- スペース効率が良くない
⑤ フリーアドレス式レイアウト
- フリーアドレス式レイアウト
Q. どんな働き方に合っている?
固定席を設けないレイアウトです。
働き方改革の取り組みの中で「フリーアドレス」という働き方が導入されるようになりました。
フリーアドレスとは、オフィスの中で固定席を持たず、自由に席を選んで仕事をするという働き方のことを指します。
また、フリーアドレス制を採用したオフィスのことを「フリーアドレスオフィス」と言います。
出入りが多い営業を始め、他部署との交流が多い企画や開発などの非定型業務に適したレイアウトといえます。
さらに近年は、他者と協働する仕事か、もしくは一人で集中する仕事なのか、業務や活動内容に合わせて席や場所を選択する働き方「ABW(Activity Based Working)」を取り入れる企業も増えています。
- 《 メリット 》
-
- 部署を越えたコラボレーションが活性化する
- 自律的な働き方ができる
- 必要外の固定席をカットすることで、オフィスの賃貸料を削減できる可能性がある
- 《 デメリット 》
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- 誰がどこにいるのか分かりづらい
- チーム・部署内のコミュニケーションが希薄化する
- 自席を設けないため、荷物のセキュリティ対策が必須
- 関連記事
- フリーアドレスについては、関連記事「フリーアドレスをオフィスに導入するメリットデメリットとは?成功に導くポイントと成功事例も解説」にて、ABWについては、関連記事「ABWとは?フリーアドレスとの違い・導入の成功に必要なこと|導入・施工事例5選」にて詳しく解説しています。ぜひ、合わせてご確認ください。
オフィスコムがお手伝いさせていただいた企業様のワークスペースデザイン集です。貴社の働き方に合ったオフィスデザインの参考にしていただければと思います。
執務室・ワークスペース施工事例はこちら
まとめ|基準寸法は安心・安全で快適なオフィスづくりの基本
オフィスが窮屈だと感じていませんか。
増員した、収納スペースが増えた、もしくは整理整頓ができていないために、いつの間にか必要なワークスペースが確保できなくなっているのかもしれません。
狭くなったオフィスはとても危険です。
安心で安全なオフィスをつくるためには社員数に対して適切なスペースの確保と基準寸法に基づいたレイアウト設計が必要です。
さらに、貴社の業務や働き方に合ったレイアウトパターンを採用することで、社員にとって快適で働きやすいオフィス環境となります。
オフィスの開設やリニューアル、移転を検討される際は是非参考にしてみてください。
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※ 事業者は、労働者を常時就業させる屋内作業場の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。
厚生労働省:労働安全衛生規則 第三編 第三章 気積及び換気